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第4回 日本生殖医療心理カウンセリング学会 ( JAPCRM ) 学術集会 開催報告

平成19年1月21日(日)、本学会の第4回目となる学術集会が、都市センターホテル ( 東京 ) にて開催されました。回を重ねるごとに参加者の数が増えている学術集会ですが、今年は287名の参加をいただき、会場には空席がほとんどない状態となりました。第1回の学術集会の前に「100名集まればいいね」と心配していたことがうそのようです。これもひとえに本学会に対する期待の大きさの表れと受け止め、参加してくださった皆様に感謝申し上げるとともに、良い学術集会にしなければという思いを新たにしております。


今回の学術集会は、大会長を務める京野廣一先生(京野アートクリニック院長)の挨拶で始まりました。京野先生は、今回のテーマを現在社会的にも大きな話題となっている非配偶者間生殖医療に関する諸問題とされ、それまで生殖医療関連の医学会ではなかなか扱われてこなかった、生殖医療に関わる「人々のこころ」に焦点を当てたプログラムが組まれました。

毎年恒例の教育セミナーは、生殖の医学、心理学の基本的な知識や最新の知見をお伝えする内容です。今年の医学分野は、柴原浩章先生(自治医科大学教授)が「難治性不妊症の病態に迫る」と題し、生殖医療の現場で最も対応に苦慮する難治性不妊の問題について解説されました。基礎研究と臨床の両面を深く知っておられる柴原先生のお話はとてもわかりやすく、知識の整理ができました。心理学分野はこれまで筆者(平山)が担当してきましたが、今年は中島美佐子先生(木場公園クリニック)と菅沼真樹先生(埼玉医科大学総合医療センター)の認定生殖心理カウンセラーお二人にお願いしました。中島先生からは、ART施設における生殖心理カウンセラーの実際的な問題について概説していただき、心理カウンセラーの職場としては十分に整備されているとはいえない生殖医療の現場でいかに活動していくかという大切な問題についてお話くださいました。菅沼先生は総合病院の心理職の立場から、職員間の連携と専門性の尊重の意義についてお話くださいました。特に、心理カウンセラーはその患者さんの「面接室に来る前の姿、面接室から出た後の姿」を想像すること等、心理カウンセラーの視点についてのお話は私にとっても非常に示唆に富むもので、アンケートでもご好評をいただきました。


今回の特別講演は、岩崎美枝子先生(家庭養護促進協会理事)にお願いしました。先生は長年養子縁組に携わってこられたご経験から、血のつながらない親子が「真実」を理解しあうことにより「ほんとうの親子」になっていく過程を事例を通じお話くださいました。会場では先生のお話に感動し、涙を流す姿も見受けられました。非配偶者間生殖医療はもちろんですが、夫婦間の治療に関しても、生殖医療に携わる我々は、長い歴史から得られた養子縁組の知見から学ぶことはたくさんあることを再認識いたしました。惜しむらくは講演時間がもう少し取れ、じっくりと先生のお話をうかがうことができればなお良かったと反省しております。


ポスターセッションでは20題の発表が行われました。狭い場所で発表時間も短かったため十分にご発表の質疑応答ができなかったのは残念でしたが、熱心な討議が行われました。優秀演題は、審査委員会による厳正な審査の結果、菅谷典恵先生(石渡産婦人科病院)の「バウムテストを用いた不妊症者の心理査定」、金澤美穂先生(神戸松蔭女子学院大学)の「不妊治療を受けていたことを子どもに伝える理由・伝えない理由」の2題に決定されました。お二人には表彰状と記念品が久保春海理事長より贈呈されました。


日本オルガノン ( 株 ) と共催のランチョンセミナーでは、田村智英子先生(お茶の水女子大学助教授)に、「生殖医療における遺伝カウンセリング」についてご講演いただきました。まだまだ日本では「遺伝カウンセリング」はなじみがありません。しかしながら、生殖医療はまさに今の世代と次の世代をつなげる医療であり、生殖という事象を考える上で遺伝の問題は今後さらに注目されるべき分野であると思います。この分野における第一人者である田村先生のお話を拝聴でき、有意義な時間となりました。


午後の最初は、初の試みであるミニ・ワークショップを筆者が担当させていただきました。ワークショップとはいえ、200名以上の参加者を対象として何ができるのか、準備には苦労いたしましたが、あえて「あまり望ましくないカウンセラーの態度」を実演し、視覚的にカウンセリングの実際を理解していただければとビデオセッションを企画いたしました。参加者の皆さんの日頃の患者さんとのかかわりを振り返っていただけたかと思います。心理士の方からすると基本的すぎる内容であったかもしれませんが、心理カウンセリングそのものに対して理解がまだ不十分な現状においては、今回のワークショップで取り上げたような「患者の気持ちを無視した情報提供」や「安易な励まし」が患者にいかに有害であるかということを理解していただくことがまずは重要だと考えてこのような内容にいたしました。他ではあまり見られない企画でしたので反応も心配でしたが、幸い参加者の皆様の反応も企画意図を汲んでくださったものが多くうれしく感じました。


最後のプログラムは「精子提供者・夫婦・子供にとってのAID」と題したパネル・ディスカッションで、AIDで生まれた方をパネリストとしてお迎えするというわが国の生殖医療関連学会では画期的な企画です。筆者は海外の学会で、よくAIDや卵子提供の当事者の方のお話を聞くセッションに参加しておりますが、わが国でこのような機会が設けられたということに大きな喜びを感じています。この実現には様々な方のご協力があったのですが、もちろん、当事者の方の「AIDの現実を知って欲しい」という熱い思いと勇気あってこその企画でした。AIDで生まれたことを知ったことの苦しみ、真実を知ることの重要性、当事者の方の一言一言が我々に問いかけてきます。我々はこの声を真摯に受け止め、当事者、医療者のすべての人が幸せになりうる生殖医療のシステムを構築していかなければならないと強く感じました。非配偶者間生殖医療については、センセーショナルな取り上げられ方をしがちですが、実際の現場では、決して劇的なばかりではない人としての苦しみを抱えた当事者とのかかわりが援助者には求められます。その方の人生、そして生まれてくる子どもたちの人生にどれだけ繊細に心を配ることができるかが重要ではないでしょうか。医師、当事者、社会福祉専門家、心理士と様々な立場でパネリストの皆様が発言されましたが、立場は違っても、この問題に真剣に取り組む姿勢は同じであることが伝わってきました。


久保理事長による閉会の辞、柴原次期大会長による挨拶で今回の学術集会は幕を閉じました。


参加者の皆様に協力していただきましたアンケートからは、おおむね好評をいただき、関係者一同ほっとしております。しかしながら、朝の受付がやや混乱してしまったこと、プログラムが盛りだくさん過ぎて時間が足りず、消化不良気味に感じた方がおられたこと等、反省点もありました。学会も大きくなり、養成講座も始まった現在、学術集会のあり方も検討の時期に来ているかもしれません。皆様にとって有意義な学術集会となるよう今後とも尽力してまいりますので、皆様のご理解、ご協力を引き続き賜りますようよろしくお願い申し上げます。

最後に、今回参加してくださった方に深く感謝申し上げて、ご報告とさせていただきます。

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